本書のテーマとなっているのは、「負動産」と呼ばれてしまうようになった不動産(土地や建物などの資産)である。

「負動産」とは、お金を生み出さず、維持費・管理費によって所有者の資産を減らし続ける不動産のことである。これらは、売ろうとしても買い手が見つからず、持ち主やその家族の資産を減らし続けていくことになる。
近年の日本では、このような「負動産」の問題が現れてきた。本書は朝日新聞の連載記事に加筆して、2018年11月にまとめられた本である。
本書の構成と内容
・共有の権利の問題。
・税金(固定資産税など)の問題。
・修繕の問題。
などを取り上げている。
不動産は、所有者が複数いる(共有している)場合がある。
共有している場合、所有者全員の意見の一致がないと売買や譲渡、建物の解体などができない。
不動産の所有者が亡くなるとその権利は子孫に相続されるが、
元の所有者の死後 何十年もたつと、相続した子孫が増えすぎて所有者が数十人になることもあり、意見の統一ができなくなってしまう。

不完全な公図と固定資産税
土地や家を持っていると、毎年税金が課される。これを固定資産税とよぶ。
固定資産税は、市町村が計算して納税者に納税通知を送る。
固定資産税は詳しい計算をして算出するが、納税通知には詳しい計算内容が省略されているという問題がある。
固定資産税の基準となる評価額とよばれる価格は、3年に1度見直される。

本書を書いた記者も、自宅の公図を調べて誤りがあることを発見した。また、税が軽減される特例の適用が忘れられている等、ミスもよく存在するという。
こうした間違いが絶えないのは、制度が専門的で複雑なのに、役所では人事異動が2−3年ごとに行われ、担当が変わることが多いためだ。
公図の問題
固定資産税の計算のもとになる、役所の地図である公図が不完全であるという問題もある。
公図は、明治時代に地租を徴収するために短期間でつくられたものである。

公的な地図である「公図」は、新政府が1873(明治6)年に始めた全国的な測量の成果として整備された。・・・ところが、この大事業をわずか8年で終わらせたため、当時の技術水準の問題だけではない不十分さが残った。
このように、土地を管理してきた制度の不備が、現代になって表面化してきている様子を描いている。
不動産活用の落とし穴。
不動産を活用しようとして、アパートなどを建てて家賃収入を得ようとする所有者もいる。
しかし、なかには法的な知識がないまま進めたためにトラブルになることもある。
本書では、家賃保証つきのサブリース契約に関わるトラブルについて、レオパレスや大東建託の事例について オーナー・建築事業者の双方にインタビューをしている。
知識を持っていないままオーナーになると、搾取されることにつながる。
現代社会では高齢だからといって知識を得る・考えるのをやめてしまうと損をする。ということだろうと感じた。
感想
お金を産まない「負」の不動産を活用しようとすると、権利を定めた法律に従う必要がある。
これらの決まりは複雑なものが多く、読み解くための労力もかかる。
所有者の権利があるため、自治体も対応ができないことが多い。
逆に、本書で取り上げられている問題は、お金の損得さえ考えなければ解決できる問題が多いとも言える、と思った。

第五章で、負動産を活用した海外の事例を紹介しているところは印象に残った。負動産問題は、日本だけの問題ではなく、現代の世界に共通する問題としてとらえていくことが必要だと思った。
今後、このように「負動産」の問題に注目が集まるようになっていくと、法律の改正などによって状況が変化していく可能性はある。
良い方向に向かっていけばいいがと思った。
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