読書記録 私の個人主義 夏目漱石 著

概要

夏目漱石による学習院大学での講演。

最初のほうのあいさつ。「学習院へ這入ったのはこれが始めてであります。(略)」

本筋とは関係がないが、味わいがある。

留学時代にやりたいことが見つからず気が揉めた話が書いてある。

漱石のように名を残した人物であっても、何がやりたいかわからずに毎日の仕事をしていた時代があったのだ。と考えると心強くなる。

権利運動について述べた部分がある。

権利拡大運動の中に過激な人々もいる点。これは現代と同じである。

印象に残った部分。

「国家的な道徳は個人的な道徳よりも段が低い。」

国家が危くなれば個人の自由が狭められ、国家が泰平の時には個人の自由が膨脹して来る、それが当然の話です。・・・けれどもその日本が今が今潰れるとか滅亡の憂目にあうとかいう国柄でない以上は、そう国家国家と騒ぎ廻る必要はないはずです。・・・国家的道徳というものは個人的道徳に比べると、ずっと段の低いもののように見える事です。元来国と国とは辞令はいくらやかましくっても、徳義心はそんなにありゃしません。詐欺をやる、ごまかしをやる、ペテンにかける、めちゃくちゃなものであります。・・・個人主義の基礎から考えると、それが大変高くなって来るのですから考えなければなりません。だから国家の平穏時には、徳義心の高い個人主義にやはり重きをおく方が、私にはどうしても当然のように思われます。

今でも国家権力と個人のプライバシー・権利と公共性の関係とか。同じようなことが議論され続けている。

現代に生きる私達が読んでも納得できる部分が多い。

まとめ

人間の性質が変わらないことから、現代から百年後、二百年後でも、「私の個人主義」を読む人は多いだろう。

この本(講演)は、過去の人々が抱いた問題や課題、そしてそれらを解決するための知恵やアイデアが詰まっており、今後も未来の人々に影響を与え続けることが予想される。

したがって時間を超えて読むことのできる、普遍的な価値を持った本であるといえる。

大げさに言えば、読書している自分自身も時間を超えることができるような感覚があった。

夏目漱石 私の個人主義

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